2010年03月06日

2 高貴な光を身に纏う

 夜が明ける。

 姜伯約は高揚と共に起き上がった。今日こそ忍従のときが報われるのだ。



 何のため、は彼にとっては自明のことだった。何故、という問いに対する答えを彼は持っていない。そもそも問うことすらなかったからだ。



 朝餉を取り、参内したとき、すべては始まるのだ。



「雲行きが余りよくないな、雪になるか。」



 ちらりと不吉な予感が脳裏を掠める。雪などもう何年見ていないのだ。

 この雪は吉となるか凶となるか。しかし、天候で吉凶を占うなどは愚かなことだと思い直す。少し神経過敏になっているようだった。普段なら気にも留めないようなことだ。

 母の形見となった翡翠の簪を髷に刺す。

 ――翡翠とは、死者の口に含むものだ、と思い至る。不吉な符号。



 頭をひとつ振る。

 己は間違ってはいない。



 冬の陰鬱な光を浴びながら、姜伯約は扉を開けた。栄光の為に。

 ――破滅の為に。
posted by みなと at 21:11| Comment(0) | くうのふたひ。こばなし
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