2009年08月13日

06// 恨んでも良い 憎んでも良い ただ泣かないで

 混乱のなか、別れの言葉も交わさず、今生の別離となった妻は今どうしているだろうか。



 ふと、母と共に思い出す面影は朧になっていく。しかし、己は確実に老いていくのに、その朧の彼女はいつまでも瑞々しい光のなかにいる。

 この歳まで妻帯しなかったのは、彼女への未練があったわけではなく、婚姻も政策の一環としてその歯車に組み込まれた自分を倦んでいたからだったと言う他はない。もっとも、このくにで異端の経歴を持つ己に嫁がせる酔狂もないだろうが。



 しかし、この歳になって、妻帯することになるとは予想外だった。



 月並みな幸せは保証できないと念を押したが、やってきた花嫁は一笑に付したのだ。

 月並みな幸せなど求めておらぬからここに来たのです、と。



 その意を深く追求することはなかった。



 ………恨んでいるだろうか。所詮、己は人を炎に巻き込むしかできぬ人間だったと。天水の妻に想いを馳せ、そして、この度も今生の別れを告げることのなかった妻に思う。
posted by みなと at 08:39| Comment(0) | くうのふたひ。こばなし
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