荀景倩は深々と溜息をついて書から顔を上げた。
「もう終り?」
弟の声が耳元で聞こえた。当然だろう、今、荀奉倩は、哥を後ろから抱きかかえるようにして座っている。抱き締める力が強いものだから、荀景倩も体勢が崩れて、正座ができずに背中を弟に預ける形になってしまっている。
以前はこんな甘え方をしただろうか。
幼い頃の記憶では、どちらかというとぼんやりしていた荀景倩を置いていって走っていくような性格だったはずだ。二人してよくくっついていたのも幼さゆえだろう。
発端は、自分が寒い寒いと言いながら書庫を物色していたのを、荀奉倩が聞きつけたせいなのだから、迂闊だったことは否めない。
ならば人肌がいちばん暖かいと言って、後ろから羽交い絞めにするというのは普通だろうか。
首元で荀奉倩が額を摺り寄せている。
ぼんやりとしたその熱に、自分もうかされているのかもしれない。
半分目蓋を閉じながら、再度背中を預けると、体の前に回された腕の力もまた、強くなった。